2001年に刊行され、2004年に文庫化された荻原浩の小説「誘拐ラプソディー」を読んだ。
文庫の裏表紙に「笑って泣ける」というようなことが書かれていたが、全くその通りで期待に違わず楽しめた。
犯罪に巻き込まれたり、犯罪が絡んだ小説はよくあるけれど、この物語の犯罪者はとてもチャーミングで、人間味があって、凶悪とは程遠く思える。そして、読み終えた今になって、そう思えたのは作者の筆力によるものなのだと、当たり前のことにしみじみと気づく。
真面目に働く代わりにギャンブルや犯罪を思いついてしまう主人公のキャラクターは、不運を言い訳にするダメな人である。けれど決して冷酷なわけではなく、子どもは嫌いと言いながら誘拐したはずの6歳の男の子と仲良くなってしまう、そうした筋書きは勿論だけれど、場面場面での、主人公の心情や子どもとのやりとりの中に表れる、つかみ所のない何かに、読む者としてとても引かれたのだと思う。それを率直に言えば、ただ物語に引き込まれていた、というだけのことなのだろうけれど。
エンターテイメント小説、という言葉があるが、そう呼ばれるジャンルのものこそ、人間をどう描いているかで読み応えが違ってくるのかもしれない、と改めて感じた。
- 作者:荻原 浩
- 発売日: 2004/10/01
- メディア: 文庫