小説の森を歩く

読んだ本の感想などを、心のままに綴っています。

旅する練習 (乗代雄介)

 乗代雄介著「旅する練習」を読んだ。
 風景描写の多い本だった。タイトルに「旅する」とあるように、目的地までの旅の道程を軸としていて、旅の中で目にする景色が次々と描かれていた。
 そのことと関係があるかどうかはわからないのだか、私にとってこの本は、普段読んでいる他の小説とは少し感触の違う本だった。何が違うのかはっきりとは言えないのだが、感覚的には、普段の読書が舗装された道をスニーカーでスタスタ歩くように進んでいくのに対し、この本は砂利の上を裸足で歩いているような感じがあった。最初の四分の一か五分の一くらいは特にそうだったから、段々に慣れたのかもしれない。では読みにくかったのかというと、そういうことでもない気がする。砂利道はスタスタ歩くには適さず、一歩一歩ふみしめた方が楽しめるということだろうか。しかも裸足の方が砂利を感じることができる。初めは砂利道だったのが、どこからか芝生になり、砂浜や遊歩道なんかも通ったのかもしれない。こんな言い方は、人に感想を伝える言葉としては抽象的で分かりにくい下手な表現かもしれないが、自分の感じたことの覚え書きとしては満足だ。
 旅が描かれているせいか、紀行文のような匂いを時折嗅ぎとっていたが、後半はこの本が小説であることを思い知らされるような展開が畳み掛けてきた。
 読み終えた今、小説というジャンルの幅の広さを教わったようにも感じている。